『焼きそばパン』に学ぶ
大企業の「日本流商売論」

桑名 伸

これまでの飲食店や中小の店舗の話に続き、今回は大企業にとっての「日本流商売」をお伝えします。前号のおさらいから始めましょう。

〈前号のおさらい〉

「日本流商売」は、お客様の財布ではなく心を見に行き、「わかってくれている」と感じてもらうことで承認欲求を満たし、双方に「心の利益」を生み出します。

心の利益が生まれると、お客様はファン化し、自ら競合を排除してブルーオーシャンが形成され、中長期の費用対効果は大きく高まります。

これまで飲食店や中小企業の事例で語ってきましたが、本来この日本流商売は大企業やデジタルビジネスこそ取り入れるべき考え方です。

大企業は心の利益が相対的に少なく、社員もお客様も承認されない感覚を抱き、心が渇き、感動がなくなり、疲れやすくなります。

それは、人間が本来もつ承認欲求が満たされず、「非承認」や「無関心」を感じてしまうためです。


〈液晶のシャープの事例〉

大企業に「日本流商売」が必要なのかは、その逆である〝お客様の心を見に行かなかった失敗〞を見てみるとよくわかるでしょう。

「液晶のシャープ」。少し懐かしい響きですね。押しも押されもせぬ電化製品メーカー、特に液晶テレビは2004年から数年間は50%以上のトップシェアでした。

「世界の亀山モデル」の高品質性はお客様の心をつかんでいました。

そして2008年にリーマンショックが起き、お客様の心は〝映像の美しさより価格〞を求めるように変化しました。お客様の心の変化を見にいかずに高品質・高価格の亀山モデルに固執した結果、低価格帯へのシフトが遅れ、海外企業に買収されたのです。

〈コンビニ『焼きそばパン』の事例〉

さらに身近な話もしましょう。お客としての私が感じた事例です。

私は焼きそばパンが大好きです。以前、コンビニでふと気づいた時がありました。

いつものように焼きそばパンを手に取ると、いつもと違った光景が目に飛び込んできました。

「おっ、焼きそばがパンの端っこまで入っているじゃないか!」

心の中で私は小躍りしました。端まで入っているどころか少しはみ出しているではないですか。

今まではパンの端は焼きそばが届いておらず、〝パンのみ状態〞が2センチ弱はあったと思います。

私は食べる時に端の2センチをちぎって捨ててから焼きそばパンを食べるのが常でした。

私にとって焼きそばパンは焼きそばパンであってほしく、焼きそばとパンのバランスが大切なのです。端は焼きそばパンではなく、ただのパンであり邪魔者でしかありませんでした。

笑い話に聞こえるかもしれませんが、焼きそばパンに興味がない無頓着な方であっても食べ物に限らず、他の物事でこんな小さい(気持ちは大きい)こだわりがあると思います。

男女ともにおしゃれな方は髪の毛のちょっとした「ハネ」が気になったりします。

男性トイレで一生懸命髪の毛をつまんでいる男性を見かけ、心の中で「そんなの誰も見ていないのに……」と私は思っていますが、逆に焼きそばパンの端をちぎってる私を見て、「バカじゃないの、もったいない」と思う人もいることでしょう。

大切なのは、〝そう考えているお客がいるかどうか〞を企業側が考えているかどうかだと思います。

焼きそばパンのうれしい変化には、経営陣の「顧客目線」、つまり顧客の心をつかみに行く目線があったと思います。

もしくは現場からのそのような意見を経営陣が取り入れる姿勢があったのかもしれません。

この話には後日談があります。なんと、焼きそばパンの残念な〝パンのみ部分〞が復活したのです。以前ほどではないけれども焼きそばがはみ出す勢いはありません。

「なるほど、こう来るのかー」

私は少し前にニュースで経営者が交代したことを知っていました。

前経営者はお客様の心を見ようと、提供する食品の味見を毎日自ら行うレベルの方でした。

その後経営者が代わって、ビジネスでいう「原価率」が焼きそばまで及んだのか?……と感じました。

焼きそば数グラムの原価は1円以下かもしれないですが、私のダメージはそんなものではありません。私のようなユーザーの気持ちを見ようとしていないことはすぐに感じました。

他にも以前(焼きそばはみ出しの時)よりもケーキ類などもおいしくないものがあったり、弁当などの底上げ(これは他のコンビニも見られますが)を見せられた時に、やはりお客の心より利益優先なんだな、と強く感じました。その結果、私は現在、他のコンビニチェーンに行くようになっています。

企業にとっては些細なことでも、お客様にとっては大きな理由になることがあります。

その〝小さなこだわり〞を見落とした瞬間は、企業がお客様の心から遠ざかる瞬間なのです。

数字のみを優先する利益中心主義ビジネスは、このギャップを広げ、競争力を弱めます。

これからは金銭的な利益と同じように「心の利益」を重視する経営が必要です。

お客様が「わかってくれている」と感じた時、財布ではなく心が開き、企業は本当の強さを取り戻します。

日本流商売の〝心を読む力〞は、大企業が再び強くなるために欠かせない要素です。

次号では、この「心の利益」を経営に組み込む方法を具体的にお伝えします。


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