蒸し暑くなってくると食欲が低下気味。
そんな時、酸(さん)の物はいかがですか? 
酸味は食欲を刺激したり、ストレスを緩和する効果があります。
唾液に溶けて舌の細胞内に入り込み、酸味を感じます。

クエン酸を含む梅干しやレモンなどの果物は、疲労回復目的で昔から食べられていました。
さらに、高温多湿な日本では米と酵母から日本酒、もっと発酵を進めて米酢。
そこには微生物が作り出す酸がたくさん。
漬物なら乳酸、お酢なら酢酸。
保存性も高まります。

鮨(すし)だって元々は発酵食品。
内臓を取った魚を軽く塩漬けに。
その後、米と酒とともに発酵させていた。
うまいし保存もできる。
一石二鳥の優良食品。
古くは古事記にウマシアシカビヒコヂの神。
「飯の上に芽生えてきた味がよいもの」を意味するのでは、とも。
奈良時代には、酢は高級な調味料。
塩、酒、醤油(しょうゆ)そして酢を四種器(しすき)と呼び、貴族が来客をもてなすメニューに。

海外にも酸っぱい料理はたくさんあります。
タイのトムヤンクンが有名。
タイ人が疲れた時に好むのは意外にも「あっさり味」だそうですが。

ただただ酸っぱいだけじゃおいしくない。
果物だって甘味と酸味のバランス「糖酸比」が大事。
舌の細胞で感じ取る基本味(きほんみ)5種(甘味、塩味、うま味、酸味、苦味)のバランスを考えつつ、酸の物を堪能しましょう。

参考資料
外内尚人(2015)日本乳酸菌学会
津村文彦他(2012)福井県立大学論集
永山久夫(1989)食べものはじめて物語

 

 

151223-文教広報誌BP顔写真

笠岡誠一(かさおか・せいいち)

1967年、広島県生まれ。
文教大学健康栄養学部教授。
管理栄養士。
食品栄養学修士(東京農業大学)。
博士(農学)(愛媛大学)。


山之内製薬(現・アステラス製薬)健康科学研究所研究員、アメリカ国立衛生研究所(NIH)客員研究員を経て現職。専門分野は栄養学、食品化学。レジスタントスターチに早くから注目し、レジスタントスターチを増やした「ハイレジ食」の開発なども行う。小説「きみのハラール、ぼくのハラール」や映画制作「CHO-KATSU」など、多分野で活躍中。